SES・働き方

SES常駐で「これって偽装請負では?」と思ったら|見分け方チェックリストと自衛の実務【2026年版】

2026/08/17 公開7分で読めるNodeBridge 編集部

準委任契約なのに「指揮命令」されるのはなぜか

指揮命令権はSES企業側にあるという法的原則

SES(システムエンジニアリングサービス)契約の多くは「準委任契約」という形態を取る。準委任契約の本質は、業務の遂行方法や進め方の裁量が受託者側、つまりあなたが所属するSES企業側にあるという点だ。客先はあくまで「成果」や「業務内容」を発注しているのであって、現場で働くエンジニア個人に対して労働時間や作業手順を直接指示する権限は本来持っていない。

もし客先の社員があなたに「明日までにこれをやって」「今日は9時に出社して」といった形で日常的に指示を出しているなら、それは実態として労働者派遣に該当している可能性がある。ここで重要なのは、契約書に何と書いてあるかではなく、現場での実態がどうかという点だ。この区分基準を示しているのが、いわゆる「37号告示」(旧労働省告示第37号、請負と労働者派遣の区分基準)である。契約書上は準委任・請負であっても、実態が労働者派遣の基準を満たしていれば「偽装請負」と判断される。

多重下請け構造がグレーゾーンを生む理由

この問題が起きやすい背景には、SES業界特有の多重下請け構造がある。元請け企業から二次請け、三次請けとエンジニアが流れていくほど、各社が負うべき管理責任は薄まっていく。結果として、契約上は自社(SES企業)がエンジニアを管理する建前になっているにもかかわらず、実際に日々の指示を出しているのは客先の現場責任者(PL)だけ、という状態が生まれやすい。

厚生労働省は2007年から2008年にかけて全国一斉点検を実施し、522件の是正指導、対象労働者12,744人という規模の偽装請負が確認された。これは決して過去の一時的な問題ではなく、多重下請け構造そのものが解消されない限り、同種の課題は現在も構造的に発生し続けていると見るべきだろう。

「グレーか黒か」を自分で判定する実践チェックリスト

自分の働き方がどの程度グレーなのかを判断する際に使いやすいのが、「管理の独立性」と「業務処理の独立性」という2つの軸だ。この2軸に沿って、日々の働き方を振り返ってみてほしい。

指示系統:誰があなたに仕事を依頼しているか

  • 作業の優先順位や具体的な手順を、客先の社員から日常的に直接指示されている
  • タスクの割り振りが、自社(SES企業側)の管理者を経由せず客先PLから直接来る

これらに当てはまる場合、「業務処理の独立性」が損なわれている状態であり、黒に近いサインといえる。

勤怠・服務規律:出退勤や休暇は誰が管理しているか

  • 客先の入退室管理システムやタイムカードで、始業・終業時刻を客先側が直接把握・管理している
  • 休暇の取得や残業の可否を、自社を通さず客先側の判断で決められている

勤怠管理を客先が直接行っている場合も、黒に近いサインとして扱ってよい。

評価者:契約更新を左右するのは誰か

  • 契約更新の可否が、実質的に客先PLの評価だけで決まっている
  • 一方で、自社の管理者と定期的な接点がなく、実質的に「放置」されている状態も、管理の独立性が疑わしいグレーサインとなる

なお、一人常駐案件は状況証拠が乏しく、後述する立証のハードルが他の案件より高くなりがちだという点は正直に伝えておきたい。複数人体制の現場に比べ、「これは自分だけの感じ方なのか、実態としてそうなのか」を裏付ける材料が集めにくいためだ。だからこそ、次章で述べる証拠の残し方が一人常駐の技術者ほど重要になる。

「黒」と判定された場合に何が起きるのか

チェックリストで複数の項目に当てはまったとしても、必要以上に恐れる必要はない。まず押さえておきたいのは、偽装請負は労働者派遣法・職業安定法上の問題として扱われるが、その責任を負うのは契約当事者である企業(SES企業・客先企業)であり、現場で働く技術者個人が罰則を受ける立場にはないという点だ。

実際に是正指導が入った後の移行実績を見ると、適正な請負への移行が54.8%、適正な労働者派遣への移行が27.7%、その他が2.3%となっている。つまり、是正指導が入ったからといって現場が即座に崩壊するわけではなく、多くのケースは契約形態を適正化する形で決着している。

技術者側にとって現実的に直視すべきリスクは、法的な罰則ではなく、契約解除によって現場を失う可能性があることだ。是正の過程で契約が見直され、結果として自分のアサインが打ち切られる、あるいは常駐先が変わるといった実務上の影響は起こり得る。だからこそ、次章で述べる「証拠を残す」習慣が、いざという時に自分の立場を説明する材料になる。

後で自分を守るための証拠の残し方

違和感を確信に変え、必要であれば相談窓口に持ち込むためには、日頃からの記録が欠かせない。特別なツールは不要で、今日から始められる方法を紹介する。

チャット・メールを「記録が残る形」でもらう技術

口頭での指示は、その場では便利でも後から振り返る材料にならない。指示を受けたら「念のため確認ですが、〇〇の作業を明日までにお願いします、という認識で合っていますか」といった形でチャットに復唱し、相手からの返信込みでテキスト化しておく。これだけで、誰が・いつ・何を指示したかという記録が自然に残る。

指示内容・勤怠を自分用にログ化する習慣

チャットに残らない指示(会議中の口頭指示など)については、簡単な日報形式で「〇月〇日、誰から、何を指示されたか」を自分用にメモしておくとよい。実際にこの習慣をしばらく続けてみると、最初は面倒に感じても数分で終わる作業だとわかるし、後から見返した時に自分の働き方の傾向が客観的につかめるという副次的なメリットもある。

客先の入退館ログや勤怠管理画面のスクリーンショットも、定期的に(たとえば月1回)保存しておくと、勤怠が客先側で管理されている実態を示す材料になる。また、SES企業の担当者との定期面談や実態確認の連絡があれば、その記録も残しておきたい。これは逆に、自社側がきちんと管理責任を果たそうとしている証拠にもなり得るため、状況を多角的に説明する材料として役立つ。

違和感が確信に変わったら相談する窓口

チェックリストと記録を通じて違和感が確信に近づいてきたら、一人で抱え込まず相談窓口を活用してほしい。

フリーランス・トラブル110番/労働局の総合労働相談コーナー

「フリーランス・トラブル110番」は、フリーランスとして働く人を対象に、契約トラブルや業務委託の適正性について匿名・無料で相談できる窓口だ。また、各都道府県労働局に設置されている「総合労働相談コーナー」でも、偽装請負を含む労働関係の相談を受け付けている。いきなり弁護士に相談するのはハードルが高いと感じる場合でも、まずはこうした公的窓口に状況を話してみることから始められる。

フリーランス新法(2024年11月施行)で変わったこと

2023年5月に成立し、2024年11月1日に施行された「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、業務委託の取引条件を書面またはメールなどで明示することを発注事業者に義務付け、報酬の支払いも給付を受けてから60日以内と定めている。施行後に締結・更新された契約にはこの法律が適用されるため、「契約書がそもそも曖昧」「契約書自体が存在しない」といったケースも相談の対象になり得る。取引条件の不透明さに悩んでいる場合は、この法律の存在を知っているだけでも交渉の材料になる。

まとめ:今日からできる3つの行動

偽装請負という言葉を聞くと不安になるかもしれないが、繰り返しになるが、技術者本人が労働者派遣法違反の直接的な責任を問われることは基本的にない。ただし「なんとなく違和感がある」という状態を、証拠を残さないまま放置してしまうと、契約解除やトラブルが起きた際に自分の立場を説明する材料がなく、不利になりやすい。

今日から始められることは次の3つだ。

1. 口頭での指示はその場で終わらせず、チャットやメールでテキストに残す 2. 本記事のチェックリスト(指示系統・勤怠管理・評価者)で、自分の働き方を定期的に点検する 3. 違和感が確信に変わったら、フリーランス・トラブル110番や労働局の相談窓口にまず相談してみる

契約の適法性に不安を感じたまま同じ現場に留まり続けるより、まずは自分の市場価値やキャリアの選択肢を広げておくことも一つの自衛策になる。Node Bridgeでは、直請け・準委任・業務委託などさまざまな契約形態の案件を掲載しており、SES常駐からの働き方の見直しを考え始めたタイミングでも気軽に案件をチェックできる。今の現場に違和感を持ったら、次の選択肢を知っておくためにも一度覗いてみてほしい。

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